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第34回 「コロコロ山」 書き方がうまくなるように 天神様に願をかけた |
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「あたまを雲の上に出し、四方の山を見おろして…」と、鼻歌交じりの春っ平は飯台を机にして、太い筆で書き方の宿題をしていた。学校でバザーがあるので、いつもの書き方用紙より倍も大きいのに「富士は日本一の山」と書いて出すことにしていた。しかし、なかなかうまく書けなかった。
「これでえがんべがな、母ちゃんどうだべ」と聞いたら「母ちゃんも見っさ行くんだがら、これではおしょすいちゃや。もっと練習してがら書けば?」と言われて、見れば見るほど字もそろってないし、春っ平は自分でも嫌になってしまった。
そしたら母ちゃんが「そうだ、春平にええごど教えっかな。学校に出すのにはまだ間に合うんだがら、今日何回も書いて見て、その中の気にいった一枚を天神様にあげて、うまくなるようにと拝んでくればいいんだ」。それを聞いた春っ平は「天神様を拝んで、うまぐなんならやってみんべ」と、喜んで何枚も練習を始めた。
やっと「これならえがんべなぁ」と、一枚を選んで母ちゃんに見せたら、「何たら春平、自分の名前も入れずに拝んだって、ご利益なんかないんだがらね」と笑われた。急いで「中里小学校尋常二年と名前も大きく書いて勇んで配志和神社の石段を駆け上がった。
本殿の右の方に小さな天神様のお堂があり、すでにいっぱい張ってあったので、春っ平の場所がない。「エィッ、真ん中へ」とばかり、堂々と張りつけてから拝んでいたが、お参りに鳴らす鈴があまりにも小さいので、本殿の大きく重いのを力いっぱい”ガラン、ガラン”と鳴らしてから、また天神様に戻って「どうか、うまくなるように」とお願いをした。
これでおれは書き方がうまくなれるんだと、張り切って石段をおりて帰った。もう配志和神社の森は薄暗くなっていた。
翌日、春っ平は天神様に願掛けしたことをみんなに話したら「おれ、書き方ずっと丙だ。拝めば甲をもらえんなら おれだちもやんべちゃ」と義男が言い出した。今日のうちに書いておいて、明日の日曜日はそれを持って、みんなで天神様にお願いに行くことに決まった。その時はおにぎりを持って来いよ、コロコロ山で遠足ごっこをして遊ぶべ−と、春っ平がみんなに約束をした。
蘭梅山の下で、配志和神社の石段を上り始める左手に、きれいな庭造りの築山がある(現在の社務所の庭)。そこは山ノ目村だが、春っ平の家の所有の山でコロコロ山と呼んでいた。一面芝生なので
「お山の大将おれ一人、あとから来るもの、つき落とせ…」と歌の文句の通りの築山なので、子供たちの遊び場になっていた。
今日はそれぞれ書いた物を天神様に願を掛けたあと、コロコロ山でおにぎりを食ってから、転げて遊ぶので義男、孝司、貞助、昭夫に司郎、清、富男が腰におにぎり、作品は大事にヒラヒラさせて持っていた。
春っ平が先頭に鳥居をくぐったら左手のコロコロ山で何人か遊んでいた。天神様に行くのだと分かって「そんな下手くそな書き方は、拝んでもうまくなんねぞ」とばかにされた。清が「山ノ目村のやつらだな」と怒った。春っ平は「黙って行くべ」と石段を上って天神様に一人ずつお願いをした。
コロコロ山へ下りて握り飯を食い始めたら、さっきの連中がやって来て「天神様はな、山ノ目村のだがら、中里村のやつらが拝んでも効き目がねぇのさ」と、またけんか腰だった。
「そんな事言うんだら、この山はおれの家の山だがら、お前だち、こごで遊ぶな」と春っ平が大声で言ったので、びっくりして「おめだちの学校は焼け学校」と叫んで逃げて行った。富男が「何にこの、おめだちの学校だって幽霊学校でねが」と負けずに叫び返していた。
(文と挿し絵は東海林久五郎さん=東京都多摩市在住)