
世界遺産登録の再挑戦は厳しい決断から始まった。核を成す中尊寺金色堂には連日多くの観光客が訪れ、荘厳の世界を目の当たりにしている
「夏ごろまでにドラフト(原案)ができていないと苦しい」。九月末に提出する五資産(中尊寺、毛越寺、無量光院跡、金鶏山、柳之御所遺跡)の暫定版推薦書について文化庁記念物課の柿澤雄二課長補佐は言う。
二十年九月の第一回推薦書作成委員会で示された日程では、二十一年三月までに主題の設定や評価基準、構成資産の決定、中国、韓国との庭園比較研究を終える予定だったためだ。
課題は五資産の評価基準で求められる▽人類の価値の重要な交流▽人類の歴史の重要な階段を物語る優れた見本▽顕著で普遍的な価値を有する出来事-の理論付け。
一方、追加登録を目指す四資産(達谷窟(たっこくのいわや)、骨寺村荘園遺跡、白鳥舘遺跡、長者ケ原廃寺跡)について、柿澤課長補佐は「世界遺産センターによると、加盟国は一年間に二件の申請ができる。新規、追加一件ずつでも可能。追加は登録範囲の重大な変更に該当し、手続きは新規とほぼ同じ」と簡単なものではないことを説明する。
大矢邦宣盛岡大教授は「大事なのは県が計画を立てて目標年次を設定。追加に向けた四資産の調査研究を進め価値の証明をすること」と強調する。
追加登録に回った四資産の地元では、絞り込みに不満が広がった。骨寺村荘園遺跡を抱える一関市厳美町本寺地区。国史跡指定に続き重要文化的景観に選定され、中世の風景が今に残る国内でも珍しい価値の高い地域が評価され、地元でも地域の宝を守ろうと保全事業に取り組んできている。
同様に奥州市の二遺跡でも歴史的価値の再認識と伝承事業が進められている。これらの地元関係者が世界遺産登録実現に向け取り組む中で得た誇りを失うことがないような支援が不可欠だ。四月二十一、二十二の両日に一関市と奥州市でそれぞれ開かれた住民説明会では、不満の声と追加登録に対する懐疑的な声が上がった。
追加に回った四資産も世界遺産候補地を形成し、その価値が決して色あせるものではなく、貴重な歴史的価値ある資産であることを国、県が明確にして住民活動を支えていく必要がある。
(終わり、世界遺産取材班)

追加登録への“切り札”として住民の期待を集める衣川区の接待館遺跡(資料=17年10月)。国・県は価値を認めながらも、時間がかかり過ぎることを理由に、長者ケ原廃寺跡に絞る方針
文化庁と県教委は四月二十二日、奥州市衣川区と前沢区で経過と今後の方針を伝えるため、住民説明会を開いた。詰め掛けた住民からは「世界遺産の構成資産とすることは、われわれが望んだわけではない。それでも住民はさまざまな面で協力してきた」「平泉を登録するために必要と言われ、今度は平泉を登録するために要らないというのか」「市は財政が厳しい中、土地取得などを進めてきた。追加登録に向けて国・県はどれだけの援助をしてくれるのか」など、同市の二資産が追加登録に回されたことへの不満、今後に対する不安の声が噴出した。
このうち衣川区では住民から「長者ケ原廃寺跡だけでなく、接待館遺跡を含めた衣川左岸遺跡群という大きな枠組みで調査範囲を広げるべき。浄土庭園都市という形で進めた方がよい」という指摘があった。接待館遺跡は「柳之御所遺跡に匹敵する遺跡」と高い評価を受けており、市教委が国史跡指定を目指すことを先月表明したばかり。時期が時期だけに、説明会では住民の期待の大きさがうかがわれた。
これに対して文化庁と県教委は「衣川左岸周辺はまだまだ調査されていないエリアが多い。今後調査計画を作る必要がある。ただ、すべて民有地であり長期スパンで考えなければならない。接待館は堤防用地という事情で発掘が進んだ。どこまで世界遺産登録とリンクさせられるかは、一刻も早く長者ケ原廃寺跡を追加登録したいという思いと、衣川左岸を解明したいという思いの調整となる」とし、趣旨を理解しながらもスケジュール的な問題から長者ケ原廃寺跡の追加登録を優先する意向を示した。
文化庁は一貫して「準備ができた所から順次、追加登録にチャレンジする」と繰り返した。「準備」とは、発掘などにより新たな発見・知見があればという条件付きであることをも表している。発掘調査などの費用に国・県が積極的な援助を約束したとはいえ、住民の不安が払拭(ふっしょく)されたわけではない。