伝統ある馬事文化

古代から人々の生活を支えてきた馬。岩手競馬も馬事文化継承にも大きな役割を果たしている=5月、水沢競馬場
古代から人々の生活を支えてきた馬。岩手競馬も馬事文化継承にも大きな役割を果たしている=5月、水沢競馬場
 岩手と馬との縁は古代までさかのぼり、藩政時代も重要な産業として位置付けられてきた。千年もの歴史の中で源義経の愛馬「太夫黒」、明治天皇が寵愛(ちょうあい)した「金華山号」など数々の名馬を輩出。また、農耕や移動、物資輸送、交易流通などで長く人々の生活を支えてきた。馬産地・岩手だけに、馬と人との縁は切っても切れないほど深い。

 時代の移り変わりとともに、馬は人のニーズに合わせ役割を変えてきたが、戦後は車とトラクターの出現で次第に影が薄くなった。車社会となった現代。都市化の波も押し寄せ、馬の居場所はどんどん狭まっている。担い手も高齢化で不足する中で、馬事文化継承はますます厳しい環境だ。

 一方で、精神的癒やしの効果があるとされるホースセラピー(乗馬療法)が注目されるなど、今なお馬は人間社会に大きな役割を果たす。長年にわたり培われた馬と人との信頼関係は、今も脈々と受け継がれている。

 遠野馬の里(遠野市)の村上信次場長は「岩手の馬文化を伝えるため、現代人が馬と接する機会を創出し続けなければ」と強調。「海外では盲導馬や災害馬、救助馬、不法投棄探索など馬が幅広く活躍している。馬が社会に積極的にかかわっていけるように関係者が橋渡ししなければ」と語る。馬事文化継承には馬がより活躍できる場を確保するのも重要だ。

 産業という観点で、今なお馬が存在感を示しているのは競馬事業。昨春、巨額融資で県民世論を二分する存廃論議となった岩手競馬だが、雇用や経済効果のほか、馬事文化継承でも大きな役割を果たす。創成期にサラブレッド導入に腐心し、戦後の貧しい最中でさえ競馬復興に立ち上がった先人たちの苦労の末、今日の競馬事業も成り立っている。単なるギャンブルではなく、岩手と馬の伝統の中で位置付けられた一大産業。経営は苦しいが、県民的なバックアップも必要ではないか。

 馬にまつわる祭神事でも江戸時代から続くチャグチャグ馬コなど、県内には数々の伝統行事がある。そのチャグチャグ馬コも年々参加馬が減少する中、谷藤裕明盛岡市長は「長い歴史を持つだけに、今後も末永く伝統を伝えていけるよう強化していきたい」と継承へ強い決意を語る。馬と人との歴史は今後も続く。馬の果たしてきた役割をもう一度見詰め直し、馬事文化を後世に伝えていくのも現代人の責任だ。
(終わり)

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 三部にわたったこの企画は千葉平(水沢支社)、伊藤稔(盛岡支社)両記者が担当しました。