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【momottalk】アートで知的障害者と社会の橋渡し 松田崇弥さん(金ケ崎町出身)①

 岩手日日電子新聞momotto独自のロングインタビュー企画「momottalk(モモットーク)」。今回は、アートやファッションを通じて知的障害者と社会の橋渡しに取り組む「MUKU」の代表・松田崇弥さん(26)=金ケ崎町出身、東京都在住=に、プロジェクト立ち上げの経緯や商品へのこだわり、今後の事業展開などを聞きました。【全3回、デジタル編集部・菅原祥】

第1回 優れたデザインを最高品質のプロダクトに。

―― まず「MUKU」とは何か、から聞かせてください。

松田 知的障害があるアーティストが描いたアート作品を、いろいろなプロダクト(製品)に落とし込んでいくプロジェクトです。コンセプトは「知的障害があるアーティストをヒーローにする」。販売価格は高くなっても、最高品質の物を作ることにこだわっています。第1弾プロジェクトで発表したネクタイや蝶ネクタイは、花巻市の「るんびにい美術館」のアーティスト4人の作品と、銀座の老舗紳士服メーカー「田屋」とのコラボレーションです。

―― ネクタイの色や織りから、そのこだわりを強く感じました。

松田 一般に、知的障害者のアートは安価な物に落とし込まれてしまっている場合が多いんです。ぼくたちは、優れたアート、デザインにふさわしく、またそれを超えるような圧倒的なクオリティーの商品を作り、ちゃんとした値段で大手百貨店やセレクトショップに並ぶようにしたいと考えています。

―― アーティストへの還元方法は。

松田 契約書を交わして、売れた金額ではなく製造した分の販売価格の3%をお渡ししています。売れなければ「持ち出し」になるリスクもありますが、今のところ赤字にはなっていません。もっとたくさんお支払いできるようになりたいです。

▲第2弾プロジェクト商品の一部

―― ネクタイに続く第2弾プロジェクトが8月にスタートしました。今回のテーマは。

松田 前回と同じくクラウドファンディング(専用ウェブサイトで資金提供を呼び掛ける方法)を利用して、宮沢賢治のイーハトーブの世界観からインスパイアされた商品群を発表しました。どれも、るんびにい美術館のアーティストたちの作品を使わせていただいています。「岩手」を打ち出したかったのと、第2弾では洋傘を作りたいと考えていたこともあって、「雨ニモマケズ」の詩から着想を得ました。プロジェクト開始日の8月27日は賢治さんが生まれた日であり、今回モデルを務めた高岩遼さん(ミュージシャン、岩手県宮古市出身)の誕生日なんです。

―― さまざまな背景やストーリー、思いが込められているんですね。

松田 賢治さんの関係者とお会いして、「雨ニモマケズ」は世の中に出すために書かれた詩ではないと聞きました。自己表現という意味では、ぼくは知的障害があるアーティストたちも描くこと、創作すること自体が生きていることの一部だという印象を受けていて、そこが詩とリンクしているようにも感じたんです。

―― 第2弾のラインアップは。

松田 「雨ニモマケズ」のイメージの洋傘。それと、童話などの作品を書き、出版した賢治さんから連想して、本皮製ブックカバー(しおり付き)、ボールペンという感じで、三つのプロダクトを決めました。洋傘は第1弾とは別のアーティストのデザインに決めて、90年近い歴史をもつ「小宮商店」に製造をお願いしました。ブックカバーとボールペンは純国産のレザーブランド「GRANESS Tokyo」に作っていただいた物です。工房を見学して、職人さんたちの技のすごさ、仕事の丁寧さに感動しました。色も質感も素晴らしい仕上がりです。

―― 購入(出資)した人たちに、どう使ってほしいですか。

松田 彼らのアート作品が日常に溶け込んでいけばいいなと。どの商品も特別扱いではなく、使い倒していただきたいと思っています。とても品質の良い物を作っているので、知的障害がある人たちが描いたということは意識せずに「純粋にアートとしてすてきだから」と普段使いしてほしいですね。

https://www.facebook.com/plugins/videos/1391970590899163/

▲「MUKU」プロモーション動画

momottoメモ

松田 崇弥(まつだ・たかや)1991年5月生まれ。金ケ崎町出身。金ケ崎中、県立大野高のOBで、東北芸術工科大企画構想学科を卒業後、東京の広告代理店に入社。企業の企画プロデュースなどの仕事を続けながら、2016年9月に双子の兄文登(ふみと)さんらと「MUKU」を立ち上げた。17年8月、第2弾プロジェクトを発表。福祉や障害者支援の固定観念にとらわれない発想と活動、高品質の商品が注目を集めている。

「るんびにい美術館」ホームページ http://kourinkai-swc.or.jp/museum-lumbi/


【第2回 自閉症の兄。るんびにい美術館。「MUKU」。を読む】

【第3回(完) 福祉の可能性、新たなビジネス形態を探る。を読む】

 

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