静かに執筆、かなわず 色川武大 ゆかりベイシー 生前の逸話紹介【一関】
「色川武大 阿佐田哲也を語る会」が20日、色川が一関市に移り住むきっかけの一つとなった同市地主町のジャズ喫茶ベイシーで開かれ、マスターの菅原正二さんと作家木村紅美さんが色川について語り合った。
ベイシーは住まいを移す前からたびたび色川が訪れていたといい、菅原さんは貸家を世話し、通夜を同市で営んだ。木村さんは今年1月にちくま文庫から発行された「色川武大・阿佐田哲也 ベスト・エッセイ」の解説を執筆した。
2人による語る会では、菅原さんが色川との数々のエピソードを紹介。木村さんは著書を読んだ中で感じていた色川像と重ね合わせながら存在の「デカさ」について語り合った。
普段は1人で店にいて執筆し、たまに客が来ると盛り上がるという菅原さんの仕事ぶりを見た色川は、菅原さんに「そのやり方いいですね。まねさせてください」と口にしたことがあるという。
菅原さんは「あれは勘違い。それを色川さんがやったら、一関が変わった。とにかく東京から客が来て色川さんは休めなかった。追っ掛けが来るのは計算していなかったんですね。自分の大きさが分かっていなかった」と、1人静かに執筆に専念したいと思いながらも、サービス精神旺盛だった色川の人となりについて語った。
木村さんは「いろんなことから逃げ出したくなったんじゃないか、という心境は『狂人日記』にも表れている。1人でいたい気持ちとサービス精神とで引き裂かれる感じを受ける」と、著書の端々から受け取っていた色川の心境を重ねていた。
また、「世間の『こういう人』とラベルを貼りたがる風潮はいかがなものか」と菅原さんが昨今の風潮に疑問を呈すると、木村さんは「色川の作品の特徴的なところは簡単に白黒付けない書き方。断罪しない。私の『まっぷたつの先生』でも、1人の人間が良くも悪くもあるという書き方をしていて、影響を与えられていたんだなと思う」と、最近読み直しているという色川作品の影響について披歴した。
席を埋め尽くすほど集まった聴衆は、新たな色川象を思い浮かべながら2人の掛け合いに耳を傾けていた。
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