花巻

漂えど沈まず 記者、ガンと闘う【番外編】

ノーベル賞「当然」と実感 寛解、本庶さんらに感謝

 血液がん・ホジキンリンパ腫を発症し、2013年秋から治療に取り組みました。職場復帰と入院の日々を記録した15年の闘病記第1シリーズ(計4回)、17年の第2シリーズ(同)には多くの反響を頂き、感謝に堪えません。第2シリーズ執筆後は再発もなく1年以上、記者として勤務できています。そこに、復帰へと導いてくれた新薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)の生みの親・京都大の本庶佑特別教授らがノーベル医学生理学賞受賞というニュース。文字通りの「命の恩人」に対する感謝と投与を受けた者の実感、現代のがん治療について思うことなどを闘病記番外編として書きたいと思います。

(花巻支社・横島正紀)

 13年10月から多種の抗がん剤で延命を図ってきた私だったが、オプジーボ投与開始直前の16年末は、分子標的治療薬・ブレンツキシマブベドチンなど各種薬剤の効果が薄くなり、従前とは違う場所に新たな腫瘤(しゅりゅう)出現など体調悪化に見舞われていた。痛みも夜眠れないほどで、その頃の日記には「もうダメだ」などと記していた。オプジーボがホジキンリンパ腫に著効を示したとの研究論文が唯一の希望で、命あるうちに保険適用となり、治療で使えるようになることを願っていた。

 幸い、16年末にオプジーボ投与開始が決定。そこから2週間に1回点滴すること12回、17年7月に寛解(検査画像上は腫瘤が見えない)診断をもらった。うそみたいだと思った。その日の帰り道には、JR盛岡駅の人混みさえも輝いて見えたことを覚えている。

 これほどの回復をもたらしてくれた薬とその研究だけに、ノーベル賞は「もらって当然」と感じた。問題のある細胞を殺すのではなく、本来その役目を担う患者自身の力を呼び起こすという発想が斬新だし、それを薬にできたのも驚くほかない。病気を通じて知り合った医師は、本庶さんらに「これを薬にするのは難しいのではないか」と助言したことがあるという。そんなにも、かつての常識とは距離のあった研究だったのだろう。

 とはいえ、オプジーボにも副作用はある。寛解から1年以上が経過したが、いまだに身をもって体験中だ。私の場合は甲状腺という臓器の機能が失われ、毎日の飲み薬が欠かせない。医療者向けの書物を読むと、甲状腺機能不全のほか、重症筋無力症や横紋筋融解症といった怖い副作用が列挙してある。今は良い面が出ていても今後、マイナス面が強く出てこないという保証などない。

 それでもオプジーボをはじめ、現代医学へ苦言を呈する気持ちは全くない。本庶さんら研究に携わった皆さんを心から尊敬するし、感謝している。だからこそ多くの人に、オプジーボをはじめとした「免疫チェックポイント阻害薬」と「それとは別の免疫療法」の差異を知ってもらいたい。免疫で全てが解決するとか、そんな分かりやすい話ではない、と理解してほしい。ノーベル賞受賞を機に多くの人が関心を持っている今だからこそ。

ホジキンリンパ腫 悪性リンパ腫の一種で、全身に広がるリンパ系組織から発生する。悪性化した細胞が臓器を侵し、致死的状況を招くことがある。わが国の年間発症者数は悪性リンパ腫全体の10%ほど(10万人中1人弱)といい、比較的まれな疾患とされる。

◆ ◆

 以上で、闘病記番外編を終わります。寛解を報告してから、本当に多くの人にお祝いの言葉を頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。まだ書きたいことがたくさんあるので、がんという海で「漂えど沈まず」にいたいと思っています。

momottoメモ

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