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心温まる音楽の旅 リトアニア・合唱交流演奏日記

杉原ウイークのクロージングコンサートで、現地の少年合唱団と国歌などを合唱

 一関市の男声合唱団「一関グリークラブ」と「ミュージカル平泉」の有志、東京の女声合唱団「しらたま」の有志がバルト三国の一つ、リトアニアを訪問し合唱交流を行った。リトアニアといえば、第二次大戦中に杉原千畝が「命のビザ」を発給した地。演奏旅行では、杉原を顕彰する杉原ウイークへの参加、桜の植樹、クロージング・コンサートへの出演のほか、地方都市のステージにも立たせてもらい、世界共通言語の「音符」を通じて心温まる交流を育んだ。「ありがとう」「アチュー(ありがとう)」と心を通わせた演奏旅行は、日本とリトアニアの交流進展の道標を示す大きな一歩となった。

文/一関グリークラブ団員・那須照市(岩手日日新聞社マルチメディア営業局)、写真は訪問団提供

 合唱交流演奏は、前・在リトアニア日本国大使館特命全権大使の重枝豊英氏から「親日国のリトアニアと、音楽で交流をしてはどうか」と一関グリークラブが誘いを受けて実現した。杉原の人道の精神を学び、合唱愛好家として国際音楽交流を図り、加えて東日本大震災の支援に直接感謝を述べる機会にしようと、有志を募って演奏旅行の準備を整えた。

まずは杉原記念館を見学 教会で最初の合唱交流も

 訪問先はリトアニア60の自治体の中から重枝氏が選んだ。最初に訪問したのは、リトアニア第2の都市・カウナスに立つ杉原記念館。杉原の功績をまとめたビデオを視聴後、館内を見学。杉原が執務した机にも向き合った。訪問を刻むべく、記念館の前庭でリトアニア国歌をリトアニア語で演奏。記念館を訪れていたリトアニアの子供たちに大変好評だった。

 引き続き人口5000人のまち、シャケイ市へ。農村地帯にある教会で、地元の合唱団「リトアニカ」と合同演奏し、「リトアニア国歌」と「愛しいリトアニア」を歌った。歌い出すと同時に、聴衆はすっくと椅子から立ち、直立不動に。複雑な建国の歴史を持つ国にあって、国民一人ひとりが抱く独立国としての誇りと、自由と文化を守る使命感が伝わるワンシーンだった。ちなみに、シャケイ市のピリパイティス市長は精悍な顔立ちで、歌に自信あり。テノール歌手そのものといった雰囲気で、合唱団と共に歌い、美声を響かせていた。

杉原ウイークに参加 聴衆の拍手に感激

 カウナス中心市街地から離れたカウナス地域市は、ちょうど収穫祭当日。合唱団の歓迎演奏を受けた後、市長から直接歓迎の挨拶を受け、記念品まで頂戴した。ロシア帝国からの独立宣言100年を表したというマフラーを早速全員が着用。大勢の市民が集う収穫祭で、ひときわ目立つ集団となった。

 しばし祭りを楽しみ、記念写真を収めながら中心市街地に戻り、カウナス・日本友好公園で桜の記念植樹を行った。苗木費用を負担したのは、岩手県関係では一関グリークラブ、一関市、遠野市、平泉町。遠野市は、千畝の妻・幸子さんのゆかりの地でもある。リトアニアとのつながりでは、名産の琥珀が縁で久慈市も交流がある。

 杉原ウイークのクロージング・コンサートは、ヴィータス・マグナス大学のホールに会場を移して行われた。一関グリークラブ、しらたまがそれぞれ演奏したほか、少年合唱団のヴァルペリス合唱団と合同で「君が代」「リトアニア国歌」「愛しいリトアニア」を歌った。日本人がリトアニア語で国歌を歌ったのは、会場にいたリトアニア国民にとっては初めての出来事だったらしい。聴衆のスタンディングオベーション、賞賛の声にこちらの胸も熱くなった。

再び農村部で合唱交流 手を取り合ってダンス!

 滞在4日目の9日は、車で高速道路を2時間半走行し、人口3000人のリエタバス市を訪問。シャケイ市同様に農村地帯だが、立派な文化センターが整備されており、地域に脈々と流れる文化の継承への強い意志を感じた。どれだけ客席が埋まるのだろうと見ていると、アッという間に400のイスが埋まってしまった。一関グリークラブ、しらたまの合唱に続き、地元のユーラーバ合唱団と合同でリトアニア国歌を演奏。ここでも、聴衆は全員が起立して共に国歌を歌ってくれた。

 終了後は市長主催のレセプションに招かれた。明るい民族性なのか、バンド演奏と歌が絶え間なく流れ、リズムに合わせて手拍子にダンス…と全身で喜びを爆発させる。われわれも一緒になって歓迎の歌を楽しみ、手を取り合ってダンスに興じては、ここでも互いに「ありがとう」「アチュー」を連呼。笑顔の途切れることのない交流を育んだ。

 演奏曲目は各会場で異なったが、男声合唱では、東日本大震災後に福島県で生まれた「群青」、女声合唱では、日本らしさを伝えるわらべ歌、合同では震災からの復興支援ソングとして歌い継がれている「花は咲く」、さらにミュージカル平泉のダンスを加えた曲も盛り込んだ。短時間の中でも中身の濃い演奏になったと思う。

根付く文化に誇り リトアニアの人々から学んだこと

 さて、今回の合唱交流演奏は多くの示唆に富むものだった。人口が少ない農村地帯でも、根付く文化を育み、生き生きとした生活を送るリトアニア人。シャイな人柄ながら、一度手を握って交流を深めれば、互いの信頼を確信し合える誠実な民族性。日本人が失いかけている大切なものを、呼び起こされるきっかけになった気がする。

 「文化を大事にする人々は、接した人の心を豊かにしてくれる」「生きるとは何か、と哲学的な無言のメッセージを投げ掛けられた気持ちになった」――と参加者は異口同音に話していた。

 今回は知識も乏しいまま、合唱交流だけでの訪問だったが、参加者は短時間の交流を通じて多くのことを学び得ることができた。温かい交流の余韻は冷めることなく続き、「また行きたい」の言葉が参加者の口から漏れたのはむしろ自然であった。合唱による民間ならではの国際交流が可能なのだと証明する旅にもなったと思う。

 近年、バルト三国を訪問して演奏する日本の団体は増えているように思うが、私たちのような、農村部に足を運んでの演奏は珍しいようだ。今後、リトアニアを訪問して交流演奏をする機会が訪れたなら、ぜひとも、地方の農村部を選び、住民交流を図ってほしい。それが、今後の日本とリトアニアの活発な文化面での交流につながる大きな一歩でもあるからだ。

【リトアニア共和国】 ヨーロッパ北東部のバルト海に面する共和制国家。首都はビリニュス。面積は北海道の5分の4で、人口は約350万人。主要都市のビリニュス市で55万人、カウナス市で35万人。ラトビア、ベラルーシ、ポーランド、ロシアの飛び地と国境を接している。20世紀半ばからソビエト連邦内の共和国だったが、1990年に独立を回復。EUに加盟しており、通貨はユーロ。1918年にロシア帝国からの独立を宣言して100年になる。日本からの直行便はなく、フィンランドのヘルシンキ経由で約12時間。時差は6時間。

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