北上・西和賀

県産米・全量純米酒で復興に挑む 喜久盛酒造

藤村卓也さん(47) 都内の会社でゲームソフト開発の仕事に携わった後、27歳で帰郷し当時喜久盛酒造の子会社だった花巻酒販に入社。2003年から喜久盛酒造代表取締役社長。

 1894(明治27)年創業。「喜久盛」「鬼剣舞」「タクシードライバー」の醸造元として独自の存在感を発揮する喜久盛酒造は、震災で酒蔵が半壊し、現在は花巻市にある旧白雲醸造所を間借りして醸造を続ける。復興のため、5代目蔵元・藤村卓也さんが選択したのは岩手県で初の「県産米だけの全量純米蔵」への転換だった。

 先代の急逝のため30歳で蔵を継承。本格焼酎ブームの逆風が吹く中、就任3年目に「地元の売れ筋は考えず、味もラベルも自分の好みを全開にして」リリースしたのがタクシードライバーだった。力強い味わいが受け、震災後に東京、関西でブレーク。これを機に、自社の商品を「全て純米酒、使うのは県産米のみ」にすることを決めた。南部杜氏を招いた丁寧な造りにもこだわった結果、かつては9割を地元流通に頼っていたのが、県外出荷が7割を占めるように。「自分がおいしいと思う酒が受け入れられ、造りたい酒が造れるようになった」とやりがいも高まっている。

 多分野のアーティストを起用するラベルでも異彩を放つが、「昔のラベルだって当時の最先端だった。現代のデザイナーが作れば昔と違うものになるのは当然」と語る。先代からの銘柄「北上夜曲」は、人気イラストレーター・吉岡里奈さんによるラベルで復活。地元・北上への思いも強い。「北上で創業した酒蔵なので北上での酒造りを再開したい。被災した本社蔵を近代的な醸造所に改築するのが目標」。藤村さんの挑戦は続く。

飲んでほしい1本 純米原酒タクシードライバー
パンチのある濃さをお燗でどうぞ

(720㎖・1678円、1.8ℓ・3372円)

 命名とラベルデザインは映画ライターでデザイナーの高橋ヨシキさん。別路線の限定品として試しに造った酒が、喜久盛酒造の中で最も生産量の多い銘柄として愛飲してもらえるようになり、自分にとっては“これに救われた”という大切な存在。生酒なので冷蔵保存されていますが、濃い味わいはお燗で真価を発揮します。食中酒にどうぞ。

喜久盛(きくざかり)酒造
住/北上市更木3-54
電/0197・66・2625

momottoメモ

地酒を醸す酒蔵では今、若手の活躍が目立っています。体にしみる日本酒が一層おいしくなる季節。伝統を守り、チャレンジを続ける若き蔵元と杜氏を紹介します。

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