伝統的な麹造り 現代の名工 多田信男さん(北上)輝く 磯自慢酒造杜氏・静岡
各分野で卓越した技能者に贈られる2020年度「現代の名工」に、全国的に知られる日本酒「磯自慢」(磯自慢酒造=静岡県焼津市)の杜氏で北上市成田の多田信男さん(77)が選ばれた。優れた技能に加え、伝統的な麹(こうじ)造りなど基本を貫いての受賞。「杜氏冥利(みょうり)に尽きる」と喜びつつ、今後も伝統的な酒造りと後進の指導に心血を注ぐ。
多田さんは20歳から農閑期を利用して酒造りに携わり、宮城県や茨城県、福島県などで修業を積み1974年に杜氏となった。各地の酒造で杜氏として腕を振るい、磯自慢酒造には23年間勤務している。
麹菌、酵母などを巧みにコントロールし優れた技能を持ちつつ、特に重きを置くのが伝統的な麹造り。「しっかりとした工程で麹を造ることが、いい酒造りにつながる」との信念で妥協を許さず、味と香りのバランスの取れた酒を目指してきた。
これまでに全国酒造鑑評会で金賞受賞、国際的な鑑評会「インターナショナル SAKE チャレンジ」大吟醸の部で最高賞を受賞するなど数々の輝かしい受賞歴を誇る。2008年のG8北海道洞爺湖サミット、16年のG7伊勢志摩サミットのシェルパ会議晩餐(ばんさん)会の乾杯酒にも取り上げられ、静岡県産酒の知名度向上にも貢献した。
一方、毎年酒造期の初期に行う講習会では講師を務めるなど後進の育成にも力を注ぎ、南部杜氏選考試験では4人の合格者を輩出。「思っていることを率直に伝えてきた。若手もだいぶ育ってきている」と手応えを口にし「今回の受賞を機に後進の指導、日本酒の発展にさらに尽力したい」と決意を新たにする。
蔵人として58年目、杜氏46年目。夏場は地元北上で農業にいそしみ、10月から翌年4月まで静岡で酒造りの生活を続ける。「日本酒は国酒。伝統を崩さぬようこれからも全うしたい」と生涯現役を誓っている。
今年度の「現代の名工」には全国で150人が選ばれた。