奥州・金ケ崎

漆産地で一貫生産 ブランド化目指す 減圧蒸留精製法確立【奥州】

減圧蒸留法での漆精製を行ういわて漆テックの及川さん(右)と李さん

 NPO法人日本伝統文化振興機構副理事長で奥州市水沢出身の及川秀悟さん(73)と漆について研究している韓国・釜山大教授の李福律さん(70)は2021年、漆産業を岩手の地で地場産業として輝かせたいとしていわて漆テックを設立した。同社では本県漆産業の課題として漆の精製事業が行われていないことにあるとし、精製について科学的なアプローチで所要時間の短縮、品質の安定化が図られる新技術の開発に取り組み、減圧蒸留法による精製法を確立して複数の特許を取得。及川さんは「岩手は漆原料生産地としてのイメージが強いが、精製を加えることによって一貫生産が可能になる。いわて漆としてブランド化を進めたい」と抱負を語っている。

 19年6月、及川さんに「岩手の漆について勉強したい」と李さんが持ち掛け、採取法、育林、流通などの調査研究のため2人が二戸市を訪問。現地で視察した結果、「漆の生産量が国内の70%以上あるものの全消費量の5%程度」「生産される生漆のほとんどは県外に出荷され、自己消費分のみ精製」「精製事業を行っていないことが産業として課題」との結論に至ったという。

 20年には李さんによる漆精製法についての研究が始まった。李さんによると、漆の精製で大事なのは水分制御とラッカーゼなどの酵素の変性を防ぐこと。従来の精製方法は火に8~10時間じっくりとかけて水分を飛ばしているが、温度管理が難しく熟練が必要な作業。李さんは科学的なアプローチで課題に当たり、真空ポンプで減圧して沸点を40度以下に下げる減圧蒸留法を採用した。

 実験を繰り返した結果、低温での蒸留によって酵素成分が変性せず、1時間半~2時間という短時間で可能になった。さらに水分量の測定も機器によって精密に行い、一定量で保持できることから再現性が高まった。2人は特許を出願し、「天然樹脂を含む樹液の劣化抑制方法」「高品質黒目漆の製造方法」など3件の特許を受けている。

 この精製方法によって、漆の炎症反応物質のテレペン油成分が分離された。室外に放出できることから、精製作業を行う職人のかぶれ被害が最小限に抑えられるようになった。

 2人は21年3月に盛岡市に本社を置く株式会社を設立し、22年3月には奥州市江刺田原地内に「奥州漆研究所」を開設。現在は同市に本社を移転した。

 同社では、昨秋から韓国で減圧蒸留法で精製した漆を漆職人に送って評価を依頼し、高評価を得ているという。また、新商品として発色の良い色漆の製造にも取り組んでいる。現在は取締役の2人を含めて5人で行っている事業について「今後は地元雇用に結び付けていきたい」としている。

 及川さんは「漆はいにしえから伝えられてきた伝統文化、伝統技術だ。最大の生漆産地が岩手だが、一般の消費に回っていないのが現状。産地としての課題を解決しようと、李さんと共に精製の研究に当たった結果、新たな手法が見いだせた。今後は生産地の二戸市に工場を設置し、一貫生産地としてブランド化を図りたい」と語っている。

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