本社醸造復活へ 被災した蔵再建 来年2月移転 CF協力求める 喜久盛酒造(北上)
東日本大震災で被災した北上市更木の喜久盛酒造(藤村卓也社長)は、本社製造所の再建に取り組んでいる。建物は年内に完成予定で、新設備も搬入。現在製造拠点としている花巻市から2024年2月に再び北上市に移す。全国的にも珍しい年間を通じて生産できる「四季醸造」とし、手始めに休眠銘柄を復活させる計画。念願の帰郷に当たり今月30日までクラウドファンディング(CF)で広く協力を募っている。
同社は1894(明治27)年創業。北上市唯一の造り酒屋として特別純米酒「鬼剣舞」、純米原酒「タクシードライバー」など数々の銘柄を世に送り出し、多くのファンに親しまれてきた。
2011年の震災と余震で酒蔵が半壊。本社での酒造りが困難となり、花巻市東十二丁目の廃業した酒蔵を14年から借用し醸造を再開した。
5代目蔵元の藤村社長(51)は「一年でも早く本社を建て直し再開させたかった」というものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響で飲食店の需要が激減し経営を直撃。本社の酒蔵は21、22年と相次いだ福島県沖の地震で壁が大きく崩れ、天井の梁(はり)が落下した。過去に増築を繰り返したことで建物の構造が複雑化し、部分的な改修は難しいとされた。
藤村社長ら社員4人は幾多の困難にもめげずに北上での醸造復活を目指し、8月から全面的な酒蔵再建に着手。被災を免れた倉庫を、鉄骨造り平屋建ての酒蔵(床面積232平方メートル)に改築する。全壊した倉庫を解体し、跡地に鉄骨造り平屋建ての倉庫(同197平方メートル)を新築。これまで被災した酒蔵で商品貯蔵、出荷作業をしてきたが、新倉庫で一体的に作業できる体制が整う。酒蔵のうち被災した土蔵は解体工事に入り、12月には完了する。
再建に当たり、酒蔵には新たに冷蔵設備を導入。冬に限らず通年で生産できる体制とする。5度の低温で保たれるため衛生面も向上し、労働環境面で従業員の負担も軽減される。
これまでも100%県産米を使用。再建に当たり奥州市江刺の農家から仕入れた米を使い、休眠中の銘柄「鹿踊り」を復活させる計画で、新たな銘柄も醸造できるようになる。
総事業費は約2億6000万円。うち1000万円を目標にCFで募っている。返礼品は5000円以上で鬼剣舞カップなどのグッズ、1万円以上で新しく完成する酒蔵で醸造した酒を提供する。
藤村社長は「飲食店の需要も増してきた。通年醸造で生産量も増やせる。さまざまな経済波及効果が期待でき、地元の米消費も伸びる」と強調。「多くの方々に支えられ、130周年の節目に念願かなって北上に戻って来られる。皆さんの期待に応えたい」と思いを語る。CFは掲載のQRコードから。問い合わせは同社=0197(66)2625=まで。
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