医師オンライン診療 患者通院負担軽減へ 北上市実証実験 モバイルクリニック
北上市は15日、看護師が移動診療車に同乗して患者宅に訪問し、医師のオンライン診療をサポートする「モバイルクリニック」の実証実験をスタートさせた。北上済生会病院に通院し、病院まで遠い慢性患者を対象に2023年2月まで実施。課題や成果を踏まえ、来年度から本格運用する。
市内では医療機関が中心部に集中する一方、高齢化が進む周辺部には診療所がなく、患者は移動負担を余儀なくされている。交通手段が乏しいなど通院困難な地区もあり、診療所設置の要望も出される中、患者の通院負担軽減へ医療機器などを搭載した車両を活用しオンライン診療を始める。東北では初、全国でも5例目となる。
運転手と看護師が患者の自宅付近まで訪問。車両内のテレビ会議システムを通じ、病院内の医師が遠隔地の患者を診察する仕組み。企画、運行業務はITテクノロジー関連業MONET(モネ) Technologies(東京都千代田区)に委託。岩手医大の助言監修、北上医師会など関係機関の全面協力で、来年2月22日まで実証実験する。
対象は診療所のない二子、更木、黒岩、口内、稲瀬、和賀、岩崎、藤根の各地区在住で、北上済生会病院に通院する生活習慣病を含む慢性疾患の患者。3回に1回は対面診療が必要で、診療は火、水、木曜。期間中は70人の利用を見込む。症状の変化が懸念されたり、初診の患者は対象外。
15日は市保健・子育て支援複合施設hoKkoで出発式が行われ、市や同院、北上医師会、受託業者の関係者らが出席。髙橋敏彦市長、北上済生会病院の一戸貞文院長らがテープカットして実験開始を祝った。
10人乗りのワゴン車にはベッドやモニター、簡便な医療機器を搭載。デモンストレーションでは看護師が患者役の血圧や体温、酸素濃度を計測し聴診器を使ったほか、医師役がモニターの画面越しに患者役に最近の体調などを聞いた。16日からは実際に診療車が患者宅に出向き、同様の流れでオンライン診療が行われる。今年度の事業費は2600万円。
髙橋市長は「16地区のうち8地区に診療所がなく、各地区への診療所設置は医師不足もあり大変難しいが、厳しい状況の皆さんに何とか応えたいと思っていた。細部に至るまで検証し、来年度の本格運行に生かしていきたい」と語った。
一戸院長は「患者は高齢化し息子や娘、孫が連れて来るが次の診療予約が決められず、単身世帯で通院が厳しい人もいる。(オンラインでも)診療の基本の『見る、聞く』はでき、『触る』も看護師が補助してくれる。医師も慣れれば、来年度以降北上市の地域医療はかなり改善されると期待している」と強調した。
市議会からは「済生会病院の患者だけでなく広く対象にすべきだ」との意見もあり、市は実証実験の結果を踏まえ対象範囲の拡大を検討していく。