日日草

2019年11月14日

 かれんな娘や恋人、上品な妻や母、温かい祖母…。あらゆる女性シーンで憧れの対象だった女優が逝った。戦後の復興期から生涯を女優業に投じた人生だった

▼ファンと呼べる芸能人はいなかったが、八千草薫さんをテレビを通じて知ったのは30年ほど前の10代後半だったろうか。今思うと当時50代後半のお姿を拝見し、一目惚れした

▼引かれたのは容姿だけではなかったろう。清楚(せいそ)で物静かながら内に筋の通ったりんとしたものを秘めていると感じたせいかもしれない。倉本聡さんのテレビドラマ「やすらぎの郷」で、芸能界専用の老人ホームに入居する大女優を優雅に演じられたことが記憶に新しい

▼芸能界から寄せられた悼む声に、存在感の大きさがにじみ出ている。「かれんな美貌の内側に芯の強さや旺盛な好奇心」「色っぽい女性の一面、純粋無垢(むく)な少女のような一面」「日だまりのような方」「日本を象徴する和服の似合う美人」など並ぶ褒め言葉は枚挙にいとまがない

▼「今という瞬間から逃げず、一瞬一瞬を大事に生きたい」「欲は持ちすぎず、ちょっとだけ無理をして生きたい」。雑誌の手記の中で見つけた言葉から人柄がしのばれる。名作とされる「岸辺のアルバム」を視聴し、「永遠のマドンナ」の在りし日に思いをはせたい。合掌。