産地振興へ思い熱く 花巻・大迫 “ぶどうつくり隊”
岩手を代表するブドウとワインの産地・花巻市大迫町。高齢化や後継者不足に直面する生産農家を支援するため、市が公募するボランティアが「ぶどうつくり隊」だ。2015年6月に発足してから3年が経過。活動が定着する一方で、メンバーや受け入れ農家の固定化、双方のマッチングの難しさといった課題も抱える。「援農」が鍵を握る産地再興。地域のブドウ栽培を支え、守ろうとする有志の熱意が早池峰の麓に注がれている。
醸造用品種ツヴァイゲルトレーベが収穫期を迎えた9月初旬。同町亀ケ森の佐藤直人さん(58)の圃場(ほじょう)に「つくり隊」の5人の姿があった。色づいた実が垂れ下がる中、一房一房に目を凝らし、かびの付いた粒を取り除く作業に精を出した。
時期によって忙しさにばらつきがある果樹栽培。17年に就農した佐藤さんは、剪定(せんてい)や摘房など品質、収穫量に直結する工程は自らが責任を持ち、「限られた時間でやらなければならない作業」「誰でもできるが手間がかかる作業」を依頼することにしている。「ビニール掛けなど1人ではできない仕事も多くあり、ずいぶん助けられてきた」
つくり隊の18年度の登録人数は55人。活動実績は延べ人数で個人参加が133人、受け入れ農家は35人だった。隊員の住んでいる所や年齢はさまざまで、「大迫に嫁いできた。友達を増やしたい」「地域貢献したい。大迫の実家を見に来るついでに地元の話も聞けていい」「農作業でリフレッシュし、農家と交流したい」など動機も幅広い。
課題の一つが、こうした意欲あるボランティアと受け入れ農家との組み合わせ。コーディネート業務を担う市集落支援員の鈴木寛太さん(27)は「夏場の誘引や芽欠き、秋の収穫など手助けが欲しい時にボランティアをしっかり投入したいところ。天気も関わるので難しい」と打ち明ける。自らも就農し、栽培の苦労や人手のありがたさを感じているだけに、今後も隊のPRに一層力を入れる考えだ。
発足当初から登録し、農家との触れ合いが魅力と足しげく通う盛岡市の小形義信さん(56)は「ボランティアから積極的に話し掛ければ、農家と打ち解けられて作業もしやすい。『助かった』と言ってもらえるのが一番うれしい」と実感する。
経験を踏まえ、必要な手伝いをタイムリーにできる仕組みとしてインターネット上の「マッチングサイト」を提案。「いつ、どんな作業があるかを農家とつくり隊が情報共有できれば、そこに合わせて休みも取れる。つくり隊同士で『その作業は滑り止め付きの軍手が便利』『今の時期は水分を多めに持った方がいい』などと教え合うことで、より充実したサポートもできる」と建設的だ。
「ボランティアを基本としつつ、活動回数の多い隊員への特典などがあれば増員につながるのでは」。つくり隊、受け入れ農家の双方からこうした意見が上がるのは、隊の貢献度、有用性が高いからこそ。篤志を地域産業にどう生かすか―。鈴木さんは「単なる労働力でなく、交流人口の増加や地域活性化に結び付けたい」と可能性を探る。