AIで高速分析 国立天文台水沢観測所 スパコンが貢献 宇宙の大規模構造進化【奥州】
京都大と東京大、国立天文台は、宇宙の大規模構造の進化についての観測結果を高速で理論予言する人工知能(AI)ツール「ダークエミュレータ」を開発した。スーパーコンピューターで数日かかる理論予言の計算を、標準的なノートパソコンで数秒以内に短縮。実際の観測データと照合しての分析に初めて直接応用でき、AIによる宇宙のビッグデータの分析に向けて前進した。開発には同天文台水沢VLBI観測所のスパコン・アテルイ、同Ⅱが貢献した。
開発に携わった西道啓博京都大基礎物理学研究所特定准教授、高田昌広東京大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者(教授)ら共同研究チームが5日に発表した。
宇宙の大規模構造は、多数の銀河が構成する網状の構造。これを観測することで、宇宙の成り立ちやダークマター、ダークエネルギーなど謎に迫れると期待されている。
研究には、同構造の形成について物理理論に基づいて計算した「宇宙論モデル」を多数用意して理論予言を作り、観測で得られたデータと比較対照することが必要となる。モデルごとに宇宙のダークマターの量や性質などのパラメーターが異なり、数十から数百万通り想定されるため、スパコンでも莫大(ばくだい)な計算時間がかかることが課題となっていた。
ダークエミュレータは、この解決のため開発された。101個の代表的な同モデルを抽出し、「アテルイ」シリーズで約3年かけて計算。約300テラバイトに及ぶシミュレーションデータベースを構築した。
これをAIの一種の機械学習装置が読み込み、パラメータ同士の対応関係を学び取った結果、新たな宇宙論モデルに対してシミュレーションを行うことなく理論予言を得られるようになった。銀河の空間分布や弱重力レンズ効果による信号などについて、実際の観測結果とは誤差2~3%の高精度という。
同天文台によると、ダークエミュレータはすばる望遠鏡での観測研究で既に使用されており、これを経て公開されるという。
