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戦時中のポスター展示 平和考える機会に 岩手ゆかりの作家制作 県立美術館【岩手】

戦意高揚を訴える松本竣介の水彩画ポスター

 第2次世界大戦中に戦意高揚や銃後の備えを訴えるため岩手ゆかりの作家に制作させたポスターが、盛岡市本宮の県立美術館で戦後初めて公開されている。戦後75年がたち、自らの体験として戦争を語れる人が少なくなる中、同館では「非常に制約が多い時代に芸術作品がどう生み出されていったかを知る手掛かりにしてほしい」としている。

 展示されているのは、同館が新たに収集した作品で、戦時中でも敗戦の色が濃くなってきた1943、44年に盛岡市で開催された戦争画展に出品された手描きの戦意高揚ポスター18点。展覧会の企画者の一人とされ、戦前に活躍した画家の遺族から寄贈を受けた。

 当時は戦争に協力するような芸術作品を制作するよう軍部から呼び掛けがあった時代。物資が制限され絵の具など画材も配給制になり、協力しないと配給を受けられない事情もあって渋々展覧会に参加したり、戦争への参加が国民の美徳と考えられた時代に責任を果たしたという満足感を得るために展覧会に参加した美術家もいたという。

 そういった時流の中で盛岡市の展覧会には絵画だけでなく版画や彫刻などさまざまなジャンルで活動する東京在住の岩手ゆかりの作家9人が参加した。漫画家として活躍していた旧沢内村(現西和賀町)出身の岸丈夫(1909年~不明)の作品のように趣旨が明快でデザイン性の高いポスターがある一方、橋本八百二(1903~79年)の作品のように稲を刈り取り束ねる人々を描いた当時の生活がうかがえる作品もある。

 18点の中には大戦中に体制批判とも取られかねない文章を投稿したことで「反戦の画家」ともいわれた松本竣介(1912~48年)の水彩画ポスター5点も含まれる。展示を担当した加藤俊明上席専門学芸員によると、松本は戦争そのものに反対していたわけではなく、画家としての自由は国家の方針に従うことではないと強調したのであって、当時から戦争画を描いていたとされ、実作の発見は非常に貴重だという。

 同館は岩手ゆかりの作家の作品を収集し、季節ごとに年4回展示替えを行いながら所蔵作品を公開。ポスターは新収蔵作品を中心に公開する第2期展示で展示され、このほか新規収蔵作家で流水紋や色彩のグラデーションに特徴があるゴトウ・シュウ(1940~2019年)の作品や、戦時中の旧満州で生きる人々や戦後に和装の女性を撮影した内村皓一(1914~93年)の写真、五味清吉(1886~1954年)の人魚を描いたびょうぶ仕立ての油彩画と花の絵、彫刻作品では舟越保武に影響を受け独自の境地を築いた照井榮(1932年~)の作品などを紹介している。10月18日まで。

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