イギリス海岸出現ならず 賢治命日 水量調節もあと一歩【花巻】
詩人で童話作家の宮沢賢治が「イギリス海岸」と名付けた花巻市上小舟渡の北上川で21日、河床の泥岩層を出現させる試みが行われ、出現するまで水位が下がらず、あと一歩で成功を逃した。同日は賢治の命日で、イギリス海岸を一目見ようと多くのファンらが訪れ、賢治ゆかりの景勝地を観賞した。
イギリス海岸はイーハトーブの風景地の一つで、ドーバー海峡の白亜の海岸に似ていることから賢治が名付けた。花巻市を流れる北上川と瀬川の合流地点付近で、水位が下がった時にだけ顔を出す。
2007年から出現の試みに取り組み、10年からは市が関係機関・団体に呼び掛け、協力を得て実施。今年も国土交通省岩手河川国道事務所や県、発電事業者などの協力を得て四十四田、御所、田瀬、綱取、早池峰の上流5ダムの流量調整を行い、北上川の水位低下を目指した。
同事務所によると、日中の出現に向け、20日午後7時から12時間にわたってダムで最小放流を実施。イギリス海岸に近い朝日橋の水位は前日から28センチ低下したものの、泥岩層の河床が現れるまで数センチ及ばず。川の中央付近では、流れの中に河床は確認できたが出現には至らなかった。
放流調整を実施した過去8回のうち、19年を含め過去5回成功している。三浦俊明河川管理課長は「泥岩層は出現の繰り返しと川の流れで削られ、以前より低くなってきている。水量調節は計画通りにいったが、水位があと一歩下がらなかった。降雨で染み出た水が川に流れたのも影響しているかもしれない」と残念がり、「来年以降も試みを続ける場合は出現に協力したい」と話した。
盛岡市から友人と訪れた獣医師の信貴智子さん(30)は「初めて見に来たので、想像通りに出現していたら河床を歩きたいと思っていた。少し残念だが、機会があれば来年も訪れたい」と水位低下に期待を込めながら水面を見詰めていた。
賢治の命日の同日は連休と重なったため親子連れら約800人が訪れた。命日に実施されている賢治祭は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から初めて中止となった。