特集:けせんra・shi・ku 酔仙酒造 大船渡蔵 「雪っこ」50周年 いい酒で感謝を伝える
愛され続けるあの飲み物をつくる気仙地方の老舗を訪ねました。
陸前高田市で被災し、大船渡市に蔵を再建した酔仙酒造の看板商品「活性原酒 雪っこ」が、昨年12月に発売50周年を迎えた。震災があった年も絶やさずに造り、たどり着いた50年。金野連・代表取締役社長は「酒蔵の周年は聞くけれど、単体の商品の周年を祝ってもらえるのはあまりないのでは」と喜び、感謝の思いを新たにしている。
濁り酒の先駆けとして1970年にデビューした「雪っこ」。例年「日本酒の日」の10月1日から3月下旬ごろまで販売される。2011年は一関市千厩町にある岩手銘醸玉の春工場を借りて醸造。同年10月中に発売された千厩生まれの雪っこは、「復興のシンボル」として被災地を元気づけた。
津波で歴史のある社屋も蔵も全て失った。「頭では破産だろうと考えているのに、これからどうする?って聞かれたときに口をついて出たのは”復興します“って言葉だった」と当時を振り返る金野社長。沈む被災地の人々に「とにかく操業しているところを見せたい」という一心で蔵を借り、震災半年後に酒造りを再開。造ったのはもちろん「雪っこ」。立ち上がる姿を見せるには、消費者によく知られていて、貯蔵期間を置かずにすぐ出荷できる雪っこが最適だった。
震災翌年に大船渡蔵が完成し「スピード復活」と驚かれたが、金野社長は「あのスタートダッシュがなかったらできなかっただろう」と思っている。「二つ返事で設備を貸してくれた岩手銘醸さんと一関市には本当に助けられた。千厩が良かったのは社員が通勤できる距離だったから。あのとき、社員に没頭できる仕事があったのが本当にありがたかった」。
大船渡蔵の場所は以前と同じ水にこだわって決めた。設備は新しくなっても、硬度のある「強い水」と、手間暇かけた造り方で「飲み飽きしない」という酔仙の味を守っている。大船渡での造りが軌道に乗り、若手社員が中心となって醸造、発酵の勉強を重ねる中、県工業技術センターと共同で酒をピンク色に染めるオリジナル酵母を開発。昨年、この酵母を使った「ぴんくの雪っこ」を発表し、大きな話題を呼んだ。「地酒はグレードアップして初めて、変わらない味と言ってもらえる。味を守るというのは厳しいが、だから面白い」と若手へ期待を寄せる金野社長。いい酒を醸すことで地酒を未来へつなぐ。
DATA
住/大船渡市猪川町字久名畑136-1
電/0192・47・4130