賢治 妹トシ「自省録」 自筆資料 市が取得 記念館保管、活用を検討【花巻】
花巻市は、宮沢賢治に多大な影響を与えた人物として知られる妹トシ(1898~1922年)の自筆資料「自省録」を取得した。心の痛みや変化、成長と向き合い、自己分析を加えた私信で、同市の宮沢賢治記念館で保管する。活用については今後検討していく。
トシが自省録を書いたのは、花巻高等女学校時代に音楽教師に抱いた恋心と挫折がゴシップ記事のような形で新聞に書き立てられた事件が起きてから5年後の1920(大正9)年2月のこと。日本女子大を卒業し、母校の教師として赴任することが決まった際に、自分の内心を整理しておかなければならないという思いで書かれたものとされている。
縦164ミリ、横206ミリの罫紙30枚に及び、家族をはじめ周囲に迷惑を掛け、自らも心に深い痛手を負った過去と真摯(しんし)に向き合い、信念を持って生きていこうとする姿勢がつづられている。文章は賢治の末妹クニの長男宮沢淳郎さんによって、著書「伯父は賢治」(1982年出版)で既に活字化されている。
トシ没後100年の2022年は、岩手大名誉教授の望月善次さんらを中心とした実行委員会により記念事業が行われ、賢治研究でトシとの関係が注目された。資料は賢治の末妹クニの遺族が保管してきたが、その重要性や所有者の意向を踏まえて市が取得することを決め、昨年12月初旬に譲り受けた。取得額は30万円。
同記念館の宮澤明裕学芸員によると、トシは詩人や童話作家などではなく、自省録はあくまでも一個人の私信として書かれたもの。賢治についての直接的な関連を示すような記述はなく評価は分かれるが、「一人の女性が教師を務めるに当たって強い気持ちで臨まなければならないという姿勢を記した資料として評価が高まっていくのではないか」としている。
資料の今後の活用方針については検討中。上田東一市長は「資料の公表がいいかは疑問に思うところもあり、賢治記念館で保管しながら、活用については学会や関係者の意見を踏まえて慎重に検討したい」としている。
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