葛西萬司(盛岡出身)に焦点 辰野金吾補佐の経緯、設計事績紹介 佐藤竜一さん本出版【一関】

一関市在住で岩手大非常勤講師の佐藤竜一さん(65)は、著書「建築家・葛西萬司 辰野金吾とともに東京駅をつくった男」を日本地域社会研究所から発刊した。明治、大正期に東京駅などを設計した建築家・辰野金吾(1854~1919年)の補佐役を務め、出身地の盛岡でも建築設計活動を精力的に展開した建築家・葛西萬司(1863~1942年)に焦点を当てた。同時代の建築家の足跡や、盛岡周辺の歴史的建造物の背景にも迫っている。
▽葛西萬司と辰野金吾▽葛西萬司と盛岡▽横浜勉と盛岡▽佐藤功一と盛岡―の4章構成。葛西の出自をはじめ、恩師・辰野と出会って補佐役に就いた経緯を紹介。辰野亡き後、単独で建築事務所を経営し、故郷で多くの建造物を設計した事績も取り上げている。
盛岡市に残る古い歴史的建造物のうち、東京駅に外観が似ている岩手銀行赤レンガ館(旧盛岡銀行本店)は、辰野が設計した建築として東北地方に残る唯一の作品。佐藤さんは著書の中で「東京駅を完成させる前に辰野と葛西のコンビは盛岡銀行本店でさまざまな試みを行ったと推測できる。いわば、盛岡銀行本店は東京駅のミニチュア版、実験作ともいえる」と指摘し、その価値を強調している。
もりおか啄木・賢治青春館(旧第九十銀行)を設計した盛岡市出身の建築家・横浜勉や、県公会堂を設計した早稲田大建築学科の礎を築いた佐藤功一も登場。一関市出身の建築家・阿部美樹志や彫刻家・長沼守敬についても触れている。
佐藤さんは陸前高田市生まれ。県立一関一高、法政大法学部を卒業後、日本大大学院博士課程前期修了。岩手大特命准教授や宮沢賢治学会イーハトーブセンター副代表理事などを歴任。「盛岡藩」など著書多数。
建築雑誌の編集記者だった佐藤さんは「辰野金吾の名声に隠れた存在だが、葛西萬治が設計した建造物は現在も結構残っている。もっと知らしめたい」と今著をまとめた。
盛岡市は大正期の和洋折衷の建物が並ぶなどとして、米紙ニューヨーク・タイムズが発表した「2023年に行くべき52カ所」の2カ所目に紹介されて注目を集めている。佐藤さんは「盛岡は古い建造物が町の風景と調和して存在している。設計者にも思いを巡らせてもらいたい」と願いを寄せている。
四六判193ページ。定価1760円(税込み)。購入などの問い合わせは日本地域社会研究所=03(5397)1231=へ。