ブラックホール自転 証拠発見 水沢VLBIなどの国際研究チーム 日中韓の電波望遠鏡網で
奥州市の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者らを中心とする国際研究チームは、巨大ブラックホールの中心付近から噴出するジェットの観測から、ブラックホールが自転している証拠を発見したと発表した。研究成果は27日付(日本時間28日)の英国の科学誌「ネイチャー」に掲載された。同観測所の秦和弘助教は「ジェットの首振り運動が分かったことで、ブラックホールが自転をしている強い証拠が見つかった」と成果を強調している。【13面に関連】
観測対象となったのは楕円(だえん)銀河M87。国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が2019年4月に、ブラックホールの周りを縁取るように輝く「光子リング」の撮影に成功。今年4月には、ブラックホールを取り巻くガスの「降着円盤」、高速で噴出する「ジェット」の同時撮影に成功し、「ブラックホールの三種の神器」がそろったとして大きな話題となった。
アインシュタインは一般相対性理論でブラックホールの自転を予言していたが、観測が難しく明確な証拠は得られていなかった。
今回の観測は、日本と中国、韓国の電波望遠鏡を中心に構成される東アジアVLBIネットワーク(EAVN)の13局の電波望遠鏡を使用。13~22年に計123回の観測を行っており、米国による00年以降の観測データを合わせ23年間に得られたジェットの画像を分析した。
その結果、ジェットの噴出する向き(角度)が約11年周期で首振り運動していることが判明。スーパーコンピューターによる理論シミュレーションで、自転するブラックホールが周囲の時空を引きずることで生じるレンズ―シリング歳差運動との結果が出た。今回は、傾いた降着円盤にブラックホールの自転による力が働いたことで歳差運動が起き、ジェットも降着円盤の動きにつられて同じように歳差運動が起きることを示した。
秦助教は「この周期的変化はブラックホールが自転していないと起きない」と説明。今回の成果を総括し「宇宙全体の構造形成に対する大きな理解の扉を開いたと思う」と語っている。
レンズ―シリング歳差 自転する天体(ブラックホールや地球など)の周囲では、一般相対性理論的な効果により、天体の自転に引きずられて時空そのものが回転する。この時空の引きずり効果をレンズ―シリング効果と呼ぶ。レンズ―シリング効果によって起こる歳差運動がレンズ―シリング歳差。歳差運動は物体の回転軸がすりこぎのように円を描きながら揺れる現象。降着円盤の場合、降着円盤の回転軸とブラックホールの自転軸が傾いている時にこの現象が起こる。