県内外

「大谷選手の肌を守りたい」 コーセー代表取締役社長 小林一俊氏に聞く

「化粧品の広告で大谷選手の新しい一面を見せられることにワクワクした」と話す小林氏=2024年1月、コーセー日本橋本社

 岩手から世界に羽ばたき、投打の二刀流で活躍する大谷翔平選手。2023年はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本優勝の立役者となり、米大リーグで日本人初の本塁打王を獲得、2年ぶりに最優秀選手(MVP)にも輝いた。今季は「赤」のエンゼルスから「青」のドジャースに舞台を移す。グローバル広告契約を結ぶコーセーの小林一俊代表取締役社長に「大谷に始まり、大谷に終わった一年」を振り返ってもらった。

 ―化粧品の広告に大谷選手を起用し、大きな話題となりました。

 去年は1月1日の新聞に始まり、2月、3月に『雪肌精(せっきせい)』の日焼け止めの新製品「UVエッセンスジェル」と『コスメデコルテ』の美容液「リポソーム アドバンスト リペアセラム」のプロモーションを大谷選手の広告で行いました。WBC開幕のおよそ1カ月前の2月16日、雪肌精の日焼け止めを発売した日になりますが、大谷選手がインスタグラムにロッカーの写真を投稿して、当社のコスメデコルテの商品がその棚にあったのです。目立つ場所に写っていたわけではないのですが、SNSで見る見るうちに拡散され、お客さまやメディアの皆さんから多くの問い合わせがありました。

 3月8日からは雪肌精の日焼け止めのCMを放送したこともあり、インスタグラムとCMの話題がテレビのワイドショーやニュースで連日取り上げられました。SNSを見た友人から掲載をお願いしたのかとよく言われましたが、決してこちらからお願いしたものではなくて、われわれもびっくりしたんです。

 3月9日に初戦を迎え、日本代表が予選プールを勝ち上がるとますます盛り上がり、ニュースも大谷選手と日本代表の活躍一色でした。そんな中で迎えた準々決勝の3月16日から放送したリポソームのCMと広告が、さらにその上をいく反響となりました。ユニホーム姿ではなく、パープルのハイネックを着た大谷選手が美容液のCMに登場したことで世間を驚かせたようです。私は日本代表は勝ち進むと信じていましたから、CMもこのスケジュールで組むことにしていました。

WBC効果で男性客が増加

 ―男性客が化粧品売り場に足を運んだそうですね。

▲美容液の宣伝で掲げられた巨大広告=2023年3月、盛岡駅ビルフェザン

 リポソームはCMと同時に、全国6つの百貨店で巨大懸垂幕、大型屋外広告を8カ所で行い、イベントもおよそ100カ所で実施しました。岩手県でも百貨店や駅ビルで大型屋外広告を掲出し、イベントを実施することで、老若男女、多くの方々にお試しいただきました。ちょうど新型コロナウイルスのマスク着用や行動制限が大幅に緩和されたタイミングということもあって足を止めてくださる方が多く、「これが大谷選手のCMでやっている美容液か」「初めて試した」などの声を頂きました。コロナ禍で「男性が化粧に目覚めた」といわれています。オンラインが普及したことで自分の顔をまじまじと見る機会が増え、気付くわけです。「しみ、しわが多くなった」だとか。さらに、韓国の人気男性グループが普段から化粧をしていることもあって、男性が化粧をすることへの抵抗感が少なくなりました。そこに大谷選手が登場したという流れです。

 CMやイベントの反響は店頭にもありました。3月から5月の男性の購入者数が何と13倍に増えたんです。百貨店ではこれまで化粧品のコーナーに来なかったような、上下スウェットの男性が来られ、購入いただいた後に「ところでどう使うの」と尋ねられるという具合で。われわれの商品は本来ジェンダーレスで、女性でも男性でもお使いいただけるのですが、今や大谷選手の効果で男性専用商品だと思っている人もいるそうです。

▲盛岡市のパルクアベニュー・カワトクで行われた体感イベント=2023年4月

 23年春夏は、こうしたニュースで常にリポソームが話題となり、乾燥が特に気になる秋冬まで売れ続けました。1万円超えの高級美容液が年間100万本売れることはあり得ないことで、私も経験がありません。昨年を総括する記事や番組で「大谷売れ」という現象が取り上げられると、真っ先に当社の名前が挙がります。その意外性が注目されたことは狙い通りでした。

 ―そもそもどういった経緯で契約に至ったのですか。

 もともと大谷選手には注目していたんです。日ハム時代からメジャーに行きたいと、自分の将来について計画的に考えている選手でしたから。ただ、化粧品会社で野球選手や大リーグの選手を使ったケースは前例がないと思います。3年以上前に検討していましたが、当初、代理人に「エンゼルスのユニホームは赤だから、(コーセーのコーポレートカラーと同じ)ドジャースにでも移籍したら考えますよ」と冗談を言ったこともありました。ですが、よくよく考えれば、当社は化粧品会社だからユニホーム姿である必要はなく、むしろ大谷選手の新しい一面を見せられるとワクワクしたことを覚えています。そんなこともあったので、今回のドジャース移籍が決まった時には本当に?と耳を疑いました。

 契約の裏話を一つすると、大谷選手と同時期に韓国の人気グループの話もあったんです。社内ではグローバルな展開につながると、特に女性社員からは韓国グループを推す声が圧倒的に多かった。大谷選手がいいと思っているのは私1人ぐらいなもので。そのうちに大谷選手がホームランを量産し出して、MVP候補に名前が挙がると、社内でもだんだん賛同者が増え、22年暮れに契約に至り、発表したのです。

気持ちを前向きにする美容 性別も年齢も関係ない

 ―どう口説いたんですか。

 これもさすがなのですが、大谷選手は自分で使用して納得できないものの広告には出演しないそうです。ならばまず使ってもらおうと、当社の商品を送りました。品質の高さを肌で感じていただきたいと。その上で化粧品会社として大谷選手の肌を守りたい、そして炎天下で野球に励む子どもたちの肌を守りたい、その活動に一役買ってほしいと伝えたところ、大いに賛同してくれました。決して一時的な人気にあやかってではなく、日差しの強いロサンゼルスにいる大谷選手が最大のパフォーマンスを発揮できるように、またスポーツはもちろん、屋外で過ごす方たちが快適な時間を過ごせるようにという願いを込めています。

“美白男子”が 甲子園で活躍

 ―昨年夏の高校野球でも「美白」が注目されました。

 23年の年初、全然日焼けしていない高校球児が甲子園を勝ち進んでいく時代がいつか来る、そんな高校同士が決勝で戦うような文化をつくりたいと広報のメンバーに話していたんです。それが去年まさに慶應義塾高校の活躍で現実になりました。慶應義塾高校は私の母校ですが、日に焼けていない選手も多く、多様性の時代だということを感じました。

 紫外線はビタミンDを生成するなど良い効果もある一方で、過剰に浴びると百害あって一利なしです。長い年月をかけ浴び続けた紫外線の影響は、年数がたってから現れます。だからこそ、小さいうちからの紫外線対策が大事です。昨年は女子野球連盟と連携して紫外線対策の講習会を開催したり、社員が高校に出向いて出前講座を行ったりと、若いうちから肌を守る大切さを伝えました。

一流選手から逆指名も

 ―23年、24年と年始の新聞に見開き全面広告が出ました。さながら男性アスリートの華麗な共演といった趣です。

 去年は大谷選手とフィギュアスケーターの羽生結弦選手の2人で、今年はそこにバレーボールの髙橋藍選手が加わって3人になりました。髙橋選手は欧州で活躍しているだけでなく、東南アジアで人気です。羽生選手は特に中国、大谷選手は米国。当社は新たな「お客さまづくり」のキーワードに、グローバル(Global)・ジェンダー(Gender)・ジェネレーション(Generation)の頭文字を取った「3G」を掲げ、性別や年齢にとらわれずに、多くのお客さまに寄り添いながら化粧品を提供していきたいと思っています。そういう意味で、この3人に地域に合わせてグローバルキャラクターを担ってもらっています。そして、今やグローバルに活躍しようと思っている一流選手が当社を逆指名してくることもあるんです。これも大谷選手の影響でしょうね。ありがたい限りです。

 ―大谷選手は今季からドジャースでプレーします。

 昨年末にまさか本当にドジャースになるとは驚きました。ドジャースは彼が高校生の時からアプローチしていたことを知っていたので、そうなってくれたらいいなという希望で口にしていたのですが。ドジャースは伝統球団でファンも多いので、開幕したらさらに人気が出て、メディアの注目もすごいんじゃないですか。3月には韓国でパドレスとの開幕戦があり、今から楽しみです。当社はまだ契約がありますので、来年はぜひ日本でやってほしいですね。

 ―これから大谷選手と一緒にどんな未来をつくっていきますか。

 日本は今、いろいろな意味で閉塞(へいそく)感があります。その中で大谷選手は明るいニュースを出してくれている。コロナ禍を経て肌の手入れをする男性が増えていますが、化粧によって気持ちが前向きになれることに男性、女性は関係ありません。これからはアスリートだって日焼け止めだけじゃなく、メイクでスイッチを入れたり、自分らしくいる手段の一つとして、化粧品は欠かせないものになるはずです。最初に大谷選手に送ったメッセージである、新しい化粧文化をつくるということを一緒に続けていきたいと思っています。


こばやし・かずとし 1962年東京都生まれ。慶應義塾大法学部卒。86年小林コーセー入社。89年より企画本部長室でCIプロジェクトを推進。91年に取締役マーケティング本部長兼宣伝部長となり、俳優の唐沢寿明さんを起用したルシェリのCMを手掛けた。そのCM内で流れた「チューして!」というセリフが話題となり、流行語大賞銀賞を受賞。95年常務取締役、2004年に代表取締役副社長となり、07年から現職。

momottoメモ

本企画について…岩手日日新聞社は2023年2月26日に創立100周年を迎え、この1年間さまざまな企画に取り組んできました。

100周年イヤーの締めくくりとなる本特集は、地域の誇り・大谷翔平選手をモデルに起用するコーセーとコラボ。時代や世界の変化を捉えつつ地域に貢献する「ローカル×グローバル」をコンセプトに、グローバル企業トップのインタビューをお届けします。

企画・制作/岩手日日新聞社100周年実行委員会

地域の記事をもっと読む

県内外
2024年4月13日付
県内外
2024年4月13日付
県内外
2024年4月13日付
県内外
2024年4月13日付