つなぐ鉄路 北上線全線開通100周年(下)
住民に積極利用の動き
国鉄が1987(昭和62)年に分割民営化され、北上線もJR東日本に移管された。同年度の北上―横手間の1日当たり平均通過人員は1147人だったが、2022年度は250人。35年間で78%減少し、4分の1以下に落ち込んだ。
沿線の人口減少、マイカー普及などが要因として考えられ、20年度以降の新型コロナウイルス感染拡大による利用控えも追い打ちをかけた。同社が公表した23年度の収支状況によると、北上―ほっとゆだ間の赤字額は11億700万円、ほっとゆだ―横手間は5億5300万円に上った。
厳しさを増す中、北上、西和賀、秋田県横手の沿線3市町で構成するJR北上線利用促進協議会は24年度、全線100周年を好機ととらえ情報発信、機運醸成事業を展開。夏休み期間の5日間、江釣子学童保育所の児童ら約180人が、この事業で江釣子―ほっとゆだ間を体験乗車した。
「また乗りたい」との声が多く、北上市都市再生推進課の高橋正貴課長は「体験後、家族での利用もあったようだ。将来に向け、子どもたちにはまず親しんでもらうことが大事だ」と語る。
住民側にも動きが出ている。同市和賀町の立川目駅利用者の会で構成する「JR北上線存続をお願いする会」は23年4月、JR盛岡支社に路線存続を求める嘆願書を提出。住民も積極的に利用する思いを伝えた。その言葉通り、沿線の岩沢と仙人、竪川目の各地区住民同士の交流会など、機会あるごとに利用。事務局の齊藤政昭さん(71)は「実際に使うことで動きを広げ、機運を盛り上げていきたい」と力を込める。
和賀地区自治協議会の早川英信会長も「自治協の研修や集落でも利用している。3人以上だと(利用促進協議会のグループ利用)助成金も出るので、使いやすい」と強調。11月初旬には笠松小と和賀西小の1年生、横川目こども園年長組園児が市街地で交流会を開いた際、約30人が同線で移動した。
笠松小の佐々木善成校長は「子どもたちはすごく喜び、乗り方やマナーを学ぶ貴重な体験ができた。もっと利用できないか検討している」と前向きだ。
北上駅東口で10月下旬に開かれた100周年記念イベントでは、交通ジャーナリストが「市民が年1回、北上線を利用するだけで劇的に変わる」と提言。1人1人の「マイレール意識」と乗車こそが、同線を救う一番の近道といえる。
(中部支社・伊藤稔、岩渕央)
momottoメモ
北上市と西和賀町、秋田県横手市をつなぐJR北上線は15日、全線開通100周年を迎えた。奥羽山脈をまたぎ岩手、秋田両県を結ぶ移動手段として物流、観光など地域経済を支え、重要な役割を果たしてきた。地域をけん引した同線の1世紀を振り返り、課題となっている利用促進策について考える。(3回続き)
(上)人と物 流れる動脈 鉱山が敷設の原動力に
(中)西和賀に欠かせぬ足 町と高校生 存続訴え
(下)「マイレール意識」が鍵 住民に積極利用の動き