先人の知見次世代へ 「たろし滝と共に五十年」 板垣さん(石鳥谷)が自費出版【花巻】
「たろし滝」の測定に情熱を注ぐ、花巻市石鳥谷町大瀬川の板垣寛さん(92)は、50年間の測定に関わる記録をまとめた本「たろし滝と共に五十年」を自費出版した。測定に至った経緯、たろし滝の太さとコメの作況指数などのデータ、測定会の様子をつづり、先人の願いや測定の記録が次世代に引き継がれ、気象学に生かされることを願い一冊にした。
たろし滝は石鳥谷中心部から西に約10キロに位置し、約13メートルの高さから葛丸川に注ぐ沢水が凍ってできる巨大つらら。古くからつららの太さでその年の稲作の豊凶を占ってきた。
板垣さんが、たろし滝を知ったのは1974年秋のこと。「太くなれば豊作、太らない年は不作」。地元で山仕事をしていた藤原丑五郎さん=当時(75)=に教わり、その年の12月に初めて見た、一人では手が回らないほどの太さに感動を覚えた。
測定会は翌年の最も冷え込む2月中旬、仲間を誘って巻き尺で太さを図ったのが始まり。過去50年間のうち78年は最も太い8メートルを測り、作況指数は112の大豊作となった。近年は温暖化が進み、平成以降は計測不能が17回あり、このうち93年は記録的な冷夏で作況指数30の大凶作となった。
本書には1年ごとに▽たろし滝の太さ▽コメの作況指数▽2月の平均最低気温▽8月の平均最高気温―のデータをはじめ、たろし滝にまつわる出来事や話題、たろし滝に寄せた川柳、写真などを見開きで収録。50年間を振り返り、「始めた頃は寒冬暑夏、暖冬冷夏が明確で太さとコメの作柄の相関が分かったが、近年は温暖化で暖冬でも暑夏になり相関が曖昧になっていると感じる」と話す。
今月11日には51回目の測定会が開かれる。たろし測定保存会の会長を後進に引き継ぎ、顧問の板垣さんは「たった50年という小さな時間軸の中での出来事。50年さらに50年と続け、先輩たちの思いや願い、知恵が凝縮された貴重な地域の資源を次の世代の人たちに伝えていってほしい」と願う。
本は四六判115ページで、300部を作製し、関係者に配布。
問い合わせは板垣さん=080(5229)0727=へ。