一関・平泉

大船渡線と私 開業100周年プレ企画

 父と仲たがいしていたわけではないが、生前親子で旅行した記憶がほとんどない。ただ一度、私が小学校入学前に行った小旅行だけは今も憶えている。父が庭木の剪定(せんてい)の腕を見込まれ、陸前高田の酒造会社から声が掛かり、大船渡線を利用した。今から半世紀以上も前のことだ。

 あの時、私は母の作った弁当を抱え、父と一緒だということすら忘れ、初めて見る車窓からの風景をワクワクしながら眺めていた。

 確か陸前矢作駅近くのトンネルに入った時だったと思う。暗くなった車窓に父のニコニコした顔が映っていた。普段見ることのない穏やかなものだった。

 父が亡くなって22年がたつ。自治体や農業団体などの旅行には積極的に参加していたが、親子で旅をする機会はあの一度きりだったように思う。もし一緒に出掛けていたら、トンネルの暗がりに映った父の穏やかな笑顔をもう一度見ることができただろうか。

(一関市室根町・小野寺正喜さん)


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企画/一関市観光協会、岩手日日新聞社

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