日日草

2025年11月7日

 歴史的な発明、発見は往々にして偶然からもたらされる。暗い実験室でたまたま装置のスイッチを消し忘れたため、黒い厚紙を透過する光の存在に気付いたのはドイツの物理学者レントゲン。手に当てて骨の形が蛍光板に写る未知の放射線を発見した

▼「正体不明な謎の光」を意味するX線と自ら名付けた。1895年の発見から130年。レントゲン写真は、主にがんの有無など臓器や骨の状態の診断に用いられている。個人的には健康診断の胸部X線検査のほか、歯科診療などで撮られることが多い

▼X線を体の多方向から照射してより詳細なデータを得られるCTなどの医療分野だけでなく、空港税関での手荷物検査や工場の製品検査、津波堆積物の解析など社会に幅広く活用されている

▼X線の発見から6年後の1901年、レントゲンは第1回ノーベル物理学賞を受賞した。賞金全額を自分が研究していた大学に寄付した上、「X線は私が発明したわけではなく、ただそこにあっただけ」として特許申請もしなかった

▼放射能や電子の発見などにもつながる契機になったとされるX線の発見。医学の進歩や産業発展への貢献度は計り知れない。多くの人々の暮らしを支え続けている現状を考えれば、発見は単なる偶然ではなく必然だったと思える。