日日草

2025年11月30日

 花巻市の豊沢川沿いに建つ名湯が国の登録有形文化財となる見通しとなった。見るからに立派な建物はかつてのにぎわいを感じさせる風格を持ち、歴史的価値が認められたことは喜ばしい

▼鉛温泉藤三旅館(藤井大斗社長)の本館と宿を代表する浴槽・白猿の湯。本館は総ケヤキ造り3階建てで楼閣風外観と純和風の細工を施した客室が特徴。白猿の湯は岩盤をくり抜き深さが1・3㍍ある日本一深い天然の岩風呂で、立ったまま湯船に漬かるユニークさに引かれ、訪ねたことのある人もいるだろう

▼木の根元で傷を癒やす白猿を見て温泉の湧出に気付いた藤井家の祖先が、約600年前に仮小屋を建てたのが始まりと伝わる。江戸時代に開業。現在の本館は再建から84年が経過し、入湯客を出迎え続ける

▼花巻出身の童話作家・宮沢賢治も幼い頃から通い、作中に「鉛の湯」として登場させるほど親しみと思い入れをうかがわせる。現代では映画のロケ地ともなっており、時代が変化しても変わらない魅力で多くを引き付ける

▼懐かしさ漂うたたずまいに憧れ、30年ほど前に泊まったことがある。湯の中でゆっくりと流れるぜいたくな時間を楽しんだ記憶がよみがえる。「後世に残し、伝えたい」。藤井社長のこの思いは、温泉ファンの願いと同じだ。