ソムリエ流 菜食健美

「琴畑かぶ」伝承のために

琴畑かぶの花

 2024年11月9日付の当欄で「琴畑かぶ」を掲載しました。今回はその琴畑かぶの採種作業を紹介します。

 琴畑かぶは、遠野市土淵町に伝わるカブで、栽培されていたとされる集落の名称から名付けられました。その特徴は、日光に当たるカブの部分が鮮やかな紫色で、甘くてスッキリとした味わいです。現在、種は種苗店では扱っておらず、生産者が毎年冬越ししたカブに花を咲かせて種を取っています。

 初回の作業は、6月下旬に花が咲き終わった枝を茎から取り集めます(写真➊)。ブルーシートの上に積み上げてハウスの中へ移動し、2週間程度乾燥させます。完熟している種は、少しの衝撃で地表にこぼれ落ちます。

 7月上旬、乾燥させた枝をブルーシートの上で棒でたたき、さやを潰します(写真➋)。さやを交差させた状態でたたくと、種が取れやすいです。

 よくたたいたら大きな枝などを手で取り除きます。種や砕けたさやなどが混じった物がシート上に残ります。それらを目の粗いざるから入れ、細かいざるに変えながらこしていきます(写真➌)。

 種とほこりになったら、風力選別機(とうみ)にかけます。選別され、種以外は外に、種は取り出し口から出てきます(写真➍)。冷暗所で保管し、お盆明けに種をまきます。

 昔、遠野は今と違って冷害が深刻な問題でした。お盆を過ぎれば、その年のコメの取れ高がだいたい分かります。そこで不作が予想されたときは琴畑かぶの作付けを増やし、食べ物を確保したと言われています。近年の猛暑は、逆に不作になるかもしれません。

 種は輸入などに頼っていないため、市内で種取りから栽培、食までを完結しています。なぜそんな貴重な物が出回らず、有名にもならず途絶えようとしていくのかは、前回触れた販路などの課題があるようです。

 昨年初めて、学校給食の食材として琴畑かぶが提供されました。地元の高校生がメニューを考え、私も生徒たちと給食をいただける機会がありました。今年も2度目の提供予定ですが、果たしてどのように調理されるのか今から楽しみです。

 文・野菜ソムリエ上級プロ高橋義明(遠野市)、写真・遠野伝統野菜研究会提供