芒種、飛翔と回想
夏日へ至る、素直で情熱的な日差し。早朝の冷え込みと湿り気は影を潜め、伸び盛りの草木が淡く香る。木漏れ日と緑陰の明暗、蘭梅山の小道。黄色い大輪を掲げるマルバダケブキが自慢げにそよぐ。樹上から白い花を落とすのは、鈴なりに咲くエゴノキだ。季節とともに移ろいゆく人の暮らし。花や虫たちも、入れ替わり立ち替わり。
せっせと花粉を集めるハナバチ、軽やかに羽ばたき蜜を吸うアゲハの仲間。卓越した飛翔(ひしょう)能力で、木立を縫い花を巡る。せわしなくも緩やかな午後までの時。暑さは彼らも苦手で、明るく涼しい時間帯の方が活発に飛ぶ。不意に、黄色い羽毛で覆われたコマルハナバチの雄が目の前を横切る。雌は雄と異なり毒針を持ち、黒い羽毛で別種のよう。片や、雌雄ともおとなしい性格。愛らしく、里山に欠かせない花粉の運び屋だ。
幼き頃、同級生の人気を博した本種の雄。刺さないハチと言われても、自身は怖くて手を出せず。里山の自然は、どこか昔を回想させる切なさをはらむ。美しさを感じたもの、こと。積み重ねた経験や知識。懐かしむ気持ちを未来へ伝え残す希望に変えて。
(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)