飛び散る雫に思案
一関市厳美町、真湯温泉から真湯大橋付近へ至る「猿跳(さるっぱね)古道」。ここは、旧国道342号線として、昭和51年までボンネットバスが走っていた。標識や磐井川に架かる橋も赤くさび、今や時代の移り変わりを語りながら森に溶け込んでいる。昭和の名残は、風と生き物たちの通り道に。
同古道の由来である猿跳橋は、猿が跳ねて渡れるほど狭い渓谷にちなみ名付けられたそう。橋の鉄骨に宿るフジが咲けば、幻想的で美しいに違いない。道中の断崖には、約2000万~1500万年前の海底火山活動で形成された緑色凝灰岩(グリーンタフ)が露出。崖上から降り注ぎ飛び散る雫に、途方なき歴史の中で生まれ帰りゆく命を思う。
気配を察し振り返ればアナグマ登場。「こんにちは」と声を掛けるも、驚く様子さえ見せずやぶに紛れた。まさに、道一本隔てれば野生の領域。そして、身近な生き物ほど、互いに害のない距離感を保つことは難しい。混ざり合う水音、大樹のひさし。生きつなぐための本能に少しさらされ、しぶきに濡れた素肌を拭った。
(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)