春盛り、羽開き
雨に打たれ、風に吹かれ、耐え忍ぶ桜の花弁。立ち込める白い霧は山々の息吹か。春の足取りに合わせて移ろう空模様。昨日の荒天がうそのように、きょうは穏やかに晴れ渡る。待ち焦がれた表舞台へ上がる幾千の生命。光に誘われ開花、開葉。チョウも続々と羽化する。
瑠璃色の羽を開き、朝日で暖を取るスギタニルリシジミ。足元に止まるも、鋭敏に気配を察し飛び去ってしまう。本種は、みずみずしい豊かな森を象徴する春限定のチョウ。開帳3センチ前後で、北海道から九州に分布する。雌は羽を縁取る黒帯が太く、主にトチノキのつぼみに産卵。ふ化した幼虫はつぼみの他、花や若い実も食べて成長。10カ月以上をサナギで過ごし、越冬した暁に羽化を果たす。
明るい林床を飛び交い、スギタニルリシジミの雄が縄張り争いを繰り広げる。片や、日中でも日が陰ると、たちまち姿をくらます。生き物たちは、その暮らしぶりを通じて時の流れや天候の変化、失われつつある理想の自然景観を教えてくれるのだ。
(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)