八幡平と季節の欠片
人と自然の持ちつ持たれつの関係は、時代の流れに伴い変容していった。今や、適切な距離感の不明瞭化により、互いに被害を与え合う負の側面が顕著に。人の生活圏から離れた山岳にも観光客が押し寄せ、環境汚染や植生破壊などの深刻化を招いている。一方、環境に配慮した登山道の整備は、自然科学の興味関心を育むきっかけとなり得る。
正午の近づきとともに活発化する虫たち。ひつじ雲を映す水辺といい、八幡平はすっかり秋の様相。と思えば、夏雲に隠れる遠景の岩手山。春に勝るとも劣らず、華やぐ足元の美しいこと。季節の欠片(かけら)が散りばめられた亜高山帯を心のまま満喫する。湿原に形成された池沼では、多種多様なトンボの求愛や縄張り争いが過熱。金緑色のタカネトンボも、飛翔(ひしょう)しながら周囲を見張る。直径60センチほどの水たまりが彼のお気に入りのようだ。
早秋から初冠雪までつかの間のにぎわい。冬に備え、ウソが未熟なナナカマドの実をついばむ。その傍ら、木道の補完を紅葉の時期に間に合わせるべくさえる匠(たくみ)の腕前。丹精を込められたこの道筋が、人と自然をつなぐ新たな守り人の志を導くと信じ。
(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)