里山スケッチ

水際の羽ばたき

羽化したコサナエの成虫。体長は4センチほど

 山肌を閉ざしていた雪は、水流となって里山の春を開く。雪解け水は、沢や川からため池へ、そして田んぼへ注がれる。恵み豊かな水は、生けるもの全てにとって、掛け替えのない命の源だ。

 5月初週の暖かな朝、ため池の水際でサナエトンボの仲間、コサナエの羽化が始まった。ぐんぐんと芽生えるように、ヤゴ(幼虫)の殻を脱いで成虫となるコサナエ。羽化は、体が固まって色づき、羽が伸びきって飛び立つまで1時間ほどかかる。成虫は、草地や林の縁で暮らし、成熟すると水辺に戻って子孫を残す。コサナエの名は、成虫が田植えの時期に現れることから、早苗の意に由来。人のなりわいと結び付きが深い本種だが、特に関東から近畿地方にかけて絶滅の危機に。それは、希少な水辺環境が多く失われたことを示す。

 爽やかな微風、羽化したトンボたちが空へ。その、幼い羽ばたきは日差しに白く輝き、生まれたばかりの妖精を思わせる。波打つ水面に、神秘と奇跡が重なり合う。

(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所主任研究員・佐藤良平)