黒衣の海鳥、北へ
黒の装いに、白い尾羽と首輪模様。幾つかの餌場を持ち、沿岸を行き来しては海草を食べ続けるコクガンたち。一見、悠々自適な暮らしぶりだが、種市海岸の荒波を耐え忍びながら北帰行に備えているのだ。もう旅立ちの日は近い。
国の絶滅危惧Ⅱ類、天然記念物指定を受けているコクガン。体長60センチ前後、翼開長は120センチほど。北極圏のツンドラやシベリア東部などで繁殖。国内には、北海道と東北地方の沿岸部を主な越冬地として渡来する。
2月中旬すぎ、洋野町の種市海岸に百数羽のコクガンが群れていた。堤防に身を潜めて望むコバルトの海。吹き上がるしぶき、波のうねりで見え隠れするけなげな翼や水かき。数羽が飛び立つと、続けて何羽も。家族という群れの結束力がよく分かる。
同日、約60羽のコクガンが種市海岸を離れ、北東の彼方へ消えて行った。日の出から日没までを彼らとともに過ごしても、愛鳥の思いが募るばかり。目まぐるしい季節の移ろい、特に今冬は別れの寂しさが尾を引く。
(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所主任研究員・佐藤良平)