里山スケッチ

晩秋の恋愛劇

ヒロバネヒナバッタの雄。北海道から九州の低山地に生息

 温暖な陸前高田市は県内で最も遅くまで虫の鳴き声を聞ける地域かもしれない。立冬過ぎの小春日和、正午を待たず同市の気温は20度。どうりでコオロギがよく鳴くわけだ。2年ぶりに再訪した箱根山展望台。広田湾と金華山を望み、「今年の汗ばむ陽気は最後か」と空に問う。それを横目に虫たちは、千載一遇の好天を逃すまいと奮起。

 展望台から箱根山山頂(447メートル)へ続く林道に、数々の陽だまりが生まれ連なる。その温もりを求め、日陰から次々に現れるヒロバネヒナバッタ(体長・2~3センチ)。雄は雌を発見すると、後ろ足を羽に擦り合わせ「ジージュクジュクジュク」と発音して距離を詰める。その誘いに雌が応えればつがいとなるが、きょうは逃げられる雄ばかり。寿命が残り少ない晩秋ともなると、多くの雌が受精卵を持ち産卵に専念するからだ。

 午後2時、日の低さが冬の始まりを物語る。陽だまりが失われ意気消沈。それでも次世代を託された卵が成長し、生命の音、活気を再び響かせてゆく。

(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)