里山スケッチ

歌う放浪者

ホソクビツユムシの雄。体長約4センチ。成虫は7~8月に出現

 曇天の合間にわずかな青空を見つけ、天気の行く末を案ずる。ポツポツと葉をたたく雨音がサーッと強まったと思いきや、すぐさまやんだ。一斉に鳴き出したヒグラシの声は涼やか。地元ではカンカンゼミと呼ばれる梅雨時のセミだ。湿度や気温の上昇を感じ、他の鳴く虫たちも続く。

 「シキシキシキ…シキチキシキチキッ」と、樹上や林縁から聞こえる鳴き声。姿は見えずとも、特徴的なその声でホソクビツユムシの雄だとわかる。不思議と、鳴き声がするたびに聞こえる位置は変わってゆく。本種の雄は、雌を探して誘うために徘徊(はいかい)しながら鳴くのだ。雄だけが羽の発音器をこすり合わせて発音。雌は腹部先端にあるかぎ爪状の産卵管を使い、広葉樹の葉の中に産卵。その部分を切り取って地面に落とす。

 何度も訪れたとある山中、眼前のアスファルトの道がどこへ抜けるか確かに知っている。それでも、毎回ここに立つたび、普段は決して行けない生き物の世界へ通じているような気分になる。それは、虫や鳥、自然音だけの空気感、不気味と神秘の混ざり合いが想像力を高めるからか。

(写真・文、久保川イーハトーブ自然再生研究所上席研究員・佐藤良平)