地方でも力を遺憾なく UターンしてT―アスリート鍼灸院開業 高橋裕太さん 北上
変わる働き方
「岩手から世界へ」をビジョンに掲げる鍼灸(しんきゅう)院が北上市北鬼柳にある。院長の高橋裕太さん(37)は、駅伝選手だった経験とトレーナーとしての長年の実績を生かし、最先端機器も活用しながら充実のサービスを提供する。新型コロナウイルス感染拡大で注目が集まる「地方」での働き方。世界を目指す地域のアスリートや高齢者を“北上発”の確かな腕で支えている。
高橋さんは同市出身。幼い頃からアルペンスキーに取り組み、一関学院高では駅伝に打ち込んだが、最後の全国大会を前に腰と股関節を痛めた。進学した城西大の駅伝部で仲間と切磋琢磨(せっさたくま)する中でも完治することはなく、「体のバランスが崩れ、さまざまな治療を受けても元の状態には戻らなかった。解決できる手段も、自分の体の状態を正しく診てもらえる場所も見つからず苦しんだ」。
つらい経験が将来の方向性を決めるきっかけになった。自ら勉強を進めるうちにトレーナーの道を志すように。当時の監督からの助言もあり、3年時に選手としての箱根駅伝出場を諦め、サポート役に回った。
卒業後は本格的にスポーツトレーナーを目指し、鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師の資格を取得。実業団運営の治療院を経て、縁あって2014年から6年間にわたり東海大駅伝チームのトレーナーを務める中、地元で車椅子生活を送る父親の体調が気に掛かり17年にUターンした。
岩手で過ごす平日は移動が困難な人のために機能訓練が可能な訪問型マッサージ事業、週末は関東でトレーナーの仕事に励んだ。2年間の往復生活で最も忘れられないのは、19年の箱根駅伝で東海大が初の総合優勝を決めた瞬間。「周りから『学生以上に泣いているんじゃないか』と言われた」と照れ笑いで当時の感動を振り返る。
20年9月、北上に「T―アスリート鍼灸院」を開業。ランナーを中心としたスポーツ選手のけがや障害の療養、パーソナルトレーニング、さらに県内初となる低酸素高地トレーニングに対応し、古里のスポーツ界を盛り上げる。介護が必要な高齢者の日常生活支援やリハビリも専門分野だ。
「ここがゴールではない。院長として多くの責任が伴ってくる」ときっぱり。コロナ禍で変動が大きい世の中にも「行き詰まった時期の過ごし方や耐え方を大事にしていきたい」と腰を据えて診療に当たる。
momottoメモ
2021新春企画A
withコロナ
新型コロナウイルスという未知の脅威に翻弄された年が過ぎ、2021年が幕を開けた。命を守りながら日常生活を平穏に営むための模索は続く。デジタル技術を活用したコミュニケーションや、従来の価値観から離れた暮らしなど、“ウィズコロナ”時代の生き方を考える。
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